においの話
なぜ微かなにおいに気づいてしまうのか?
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柔軟剤の香り、雨の降り始めのにおい、他人からのにおい…。
他の人が気づかない微かなにおいに、つい反応してしまう方がいます。現代の日本では、このような「においに敏感な人」が増えています。今この記事を読んでいる方の中にもいるかもしれません。神経質なだけだと思われているかもしれませんが、あなたは世界を解像度高く捉えることができる鼻を持っているということです。今回は、「においに敏感」とはどういうことなのか、またなぜ敏感な人が増加しているのかを考えてみます。
においに敏感ということを科学的に捉えると、嗅覚の検知閾値が低い人と言えます。
検知閾値とは、におい分子を感知できる最小濃度のことで、0.01mgの変化にも気づく人です。例えると、情報を受け取る入口のゲートが軽く、低い場所にあるため、微かなにおい分子も見逃さずにキャッチして脳に伝えています。一方、においに鈍感な人はこのゲートが重く、高い場所にあるため、大きな情報(強いにおい)が来ないと、ゲートは開かず、脳には届きません。
においに敏感な人は、他の人が気づきにくい、小さな情報を受け取っています。
それでは、なぜ敏感な嗅覚が生まれるのでしょうか。
様々な要因が考えられますが、まずは、生理的・遺伝的に生まれ持ったハードウェアの性能差です。人は約400種類の嗅覚受容体を持っていますが、その構成や密度には個人差があります。また女性の場合は、月経周期や妊娠など、ホルモンバランスの変化が嗅覚にも影響すると言われています。
ハードウェアで受け取った信号を、脳がどのように処理するのかという、ソフトウェアの問題もあります。感覚過敏(HSP)の性質を持つ人は、外部刺激を深く処理するため、鼻から送られてきた信号を脳が重要な情報として処理している傾向があります。
さらに、通常であれば、人は同じにおいを嗅ぎ続けると、脳が「重要でない刺激」と処理する順応という現象が起き、自然に背景として馴染んでいきます。しかし、何らかの理由で、この順応が起きにくい人は、ずっとにおいを感じ続けてしまいます。
また、心と体の状態が感度に影響を与えることもあります。過去の記憶や感情が、閾値を実質的に下げてしまうケースです。例えば、一度でも「不快」と認識したにおいに対しては、脳が警戒態勢をとります。すると、微かな気配だけでも、またあのにおいだ!と即座に検知するようになります。
近年、環境要因によって過敏な嗅覚となってしまうケースも増えています。これは、過去に大量の化学物質にさらされたことがきっかけで、その後ごく微量にも体が拒絶反応を示すようになる「化学物質過敏症」などの自分を守ろうとする切実なサインである場合もあります。
特に、現代の日本でにおいに過敏な人が増えている要因として、街が清潔になりすぎたことも影響していると言えます。無臭の中に微かなにおい分子があると、際立って感じられる環境になっています。また、不安が高まっていると、生存本能として周囲の情報をより細かく拾おうとし、フルパワーでセンサーを稼働させている状態なのです。
「においに敏感であること」は、決して鼻が弱くなったわけではありません。むしろ、現代社会が効率や清潔を優先するあまり、多様なにおいを受け入れる「心の余白」を失ってしまった結果ではないでしょうか。
鋭い嗅覚は、時として生きづらさを運んでくるかもしれません。しかしそれは、世界にある豊かな彩りを教えてくれる高度なセンサーでもあります。あなただからこそ気づける季節の移ろいや、繊細な食べ物の風味を、一つの才能として大切に楽しんでみてください。