国や文化でにおいのマナーも違う?

国や文化によって、食事やマナーの違いがあるように、においにも違いがあることはご存知でしょうか?
近年、外国人労働者の受け入れが進む中で、私たちの職場はかつてないほどに「多文化」になっています。それと同時に、人事担当者や管理職の間で密やかに増えているのが、実は「におい」に関する相談です。これまで「スメルハラスメント(スメハラ)」といえば、加齢臭や口臭、香水のつけすぎといった個人のマナーの問題として片付けられてきました。しかし、グローバル化が進む今、それは「マナーの欠如」ではなく「文化のギャップ」という新しい課題に進化しています。

まず私たちが認識すべきは、「清潔」の定義が国や文化によって180度異なるという事実です。

文化人類学の研究やグローバル企業の市場調査によれば、日本のビジネス文化では「無臭」であること、あるいは石鹸のような淡い香りが清潔感の証とされます。対して、諸外国の多くでは、香水やオイル、スパイスなどの豊かな香りをまとうことこそが身だしなみを整えている証であり、逆に無臭は「ケアをしていない」と見なされることすらあります。つまり、私たちが「きついにおい」と感じるその瞬間、相手は「マナーとして最善を尽くしている」可能性があるのです。

また、視点を変えれば、私たち日本人もまた「においの当事者」です。海外の視点からは、日本人は「醤油や出汁のにおい」や、湿度の高い環境下での「衣類の生乾き臭」が指摘されることも少なくありません。相手を指摘する前に、自分もまた、誰かにとっては異質なにおいを発しているという相対的な視点を持つことが、不要な摩擦を避ける鍵となります。

では、具体的にどう向き合っていけばいいのでしょうか?相手を傷つけたり、職場の空気をギスギスさせたりせずに、スムーズに解決へ導くためのポイントを整理します。

まずは、「個人」ではなく、「みんなのルール」として語ることです。
特定の誰かを呼んで注意をするのではなく、「職場の共通マナー」として発信してみましょう。例えば、朝礼や社内掲示板で「日本のオフィスは密閉されがちなので、香水や柔軟剤など、強い香りは控えめにしてみんなで集中しやすい環境をつくろう」と全体に呼びかけます。主語を「みんな」とすることで、特定の人への攻撃ではなく、「より良いチームづくりのための協力依頼」へと形を変えることができます。

本人の努力だけに頼るのは、お互いにとってプレッシャーになります。そこで、「物理的な環境改善」をしてみましょう。換気回数を増やすことや、空気清浄機や脱臭装置の導入は、花粉症やウイルス対策としてもみんなとってプラスになります。また、食事後のにおいが残らないよう、休憩室と執務エリアを明確に分けると、午後の執務エリアの空気はぐっと軽やかになります。

どうしても個別に相談が必要なときは、「そのにおいが悪い」と否定するのではなく、あくまで、「日本のビジネスシーンにおけるコツ」を伝授するようなトーンがおすすめです。「あなたのスタイルを否定するわけではないが、日本のオフィスは密閉されていて、香りに敏感な人も多い。ここでより円滑に仕事を進めるために、オフィス内では少し香りを抑えるのが日本流のビジネスのコツなんだよ」といった具合です。相手のアイデンティティを尊重しつつ、新しい環境への「適応」をやさしくサポートする姿勢が、信頼関係を深めます。

日本のビジネス文化では、明言しないけれどみんなが知っている常識が多数あると思います。しかし今の時代は、いろんな国籍・年代・性別など、その「常識」が異なる人たちが、1つのチームとなる職場が増えています。個人の問題と捉え、当人の「郷に入って郷に従う」努力を期待するのではなく、みんなが心地よく働ける「郷」をつくるために、みんなで協力していこうとする姿勢が、今の時代には必要なのかもしれません。