百日せきの流行

新型コロナウイルスの流行時、感染者数が減少していた「百日せき」が再び流行しています。
これまでも年間1万人が感染していましたが、2020年以降は1,000人を下回るまで激減しました。新型コロナ流行によって、感染症対策への意識が高まったことで、他の感染症と同じく流行が抑えられていたと考えられます。しかし、新型コロナ対策が緩和され、日常が戻ってきた2024年には再び感染者数が増え、年間患者数は約4,000人となりました。そして、2025年はさらに増加し、4月時点で7,000人を超えています。

予想だにしていなかった流行によって、一部の薬が不足するなどの混乱も見られますが、そもそも百日せきとはどのような感染症なのでしょうか。
百日せきは子供を中心に感染する感染症で、症状としては特有の激しいせきが長く続きます。特に赤ちゃんは重症化するリスクが高く、6ヶ月以下の赤ちゃんが感染すると死亡するリスクもあります。
特有の症状とは、せきが連続して発作のように出ます。息継ぎのできないようなせきが、何十秒から長い場合は2分ほど続き、ヒューヒューというような苦しい音が出ることもあります。

百日せきはインフルエンザなどのウイルス感染ではなく、百日せき菌という細菌感染症です。感染経路は、主にせきやくしゃみによる飛沫です。この細菌の恐ろしいところは強い感染力で、その感染力はインフルエンザの5倍以上と言われています。また、上記のような特有の症状が発症するまでは、一般的な風邪と同じような症状が2週間ほど続きます。実は、この期間が最も感染力が強く、他の人にうつしてしまうリスクが大変高いと言われています。

それでは、なぜ感染者が増えているのか。そこには大きく2つの理由が考えられています。
1つ目は、新型コロナ流行中の徹底した感染対策によって、人々の百日せきに対する免疫が落ちてしまったことです。さらに、その間に百日せき菌が強くなり、これまで治療に使われてきた薬が効かない「耐性菌」が広がっているケースも各地で報告され、それも流行した理由の1つと考えられます。

感染力が強く、かかると苦しい症状が長く続く百日せきの感染を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。まずは、飛沫感染を防ぐためのマスク着用と手洗いです。しかし、重症化しやすい赤ちゃんへの感染を防ぐには、ワクチン接種が最も有効です。生後2ヶ月からの定期接種のワクチンを速やかに接種することや、妊婦がワクチン接種をすることで赤ちゃんが守られることも分かっています。またワクチンの効果が10年と言われているため、日本小児科学会からは、就学前や11~12歳の子どもにもワクチン接種をすることが呼びかけられています。

百日せきは、小学生や大人が感染した場合には、一般的な風邪と区別がつかないことが多くあります。そのため、百日せきに罹患したことに気が付かないまま、赤ちゃんにうつしてしまうというケースも多く起こっています。赤ちゃんを守るためには、ワクチン接種はもちろん、大人の私たちが感染しないよう注意が必要です。